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久しぶりに児童書を読む
地域の図書館の児童コーナーで
手にした本「ノーと私 No et moi」
デルフィーヌ・ドウ・ヴィガン Delphine De Vigan

表紙の絵は変だったが
ぴんと来るものがあった
迷わずわたしは本をカウンターに持って行った

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私(ルー)はオーステルッツ駅で
発着する列車を眺め
人々の喜怒哀楽を観察し
その感情に触れることが趣味だった

ある日その駅で、ホームレスのノーに
「タバコある?」と声をかけられた
彼女は穴のあいた古ぼけたジャンパーに
カーキ色の汚れたズボンをはいて
首にベネトンのマフラーを巻いていた

ノーはルーにいろいろ質問する
私は幼稚園で字が読めるようになって
小学校は1つ飛び級して2年生からはじめたこと
しかし授業がつまらなくて
髪をひっぱっていたらはげができて
はげが3つになったときにまた飛び級した
だから今は13歳だけれど高校1年生だと話す

ルーも質問したかったがとても緊張していた
ノーを観察するだけでせいいっぱい

ルーはこれまでどこにいても
自分が外側にいるような気がしていた
しかし今ルーはノーと自分のまわりに
円を描くことができた
ルーをはじき出さない円
ルーとノーを包み込む円
つかの間世界からふたりを守ってくれる円

ひと言さよならと小さく手をふるルー
ノーはまだそこにいてルーをみつめる
私の胸はしめつけられる
ひどく虚ろな目を見ただけで
ノーには帰りを待つ人もなく
家やコンピュータはもちろん
ゆくあてさえないということがわかったから

三枚重ねのジャンパーの下に
ノーはつらい過去の記憶を抱えているにちがいない
心にとげのように刺さった思い出
これまでだれにも打ち明けたことのない過去
ノーのそばにいたい
いっしょにいられたらいいのに
その夜ベットの中で
私はノーの年を訊かなかったことを後悔した
ノーはほんとうの人生を知っている
というか人生の恐ろしさみたいなものを
すでに知っているような気がした

翌日マラン先生に研究発表のテーマを訊かれ
思わず私は言っていた

ホームレスについて
若いホームレスの女性の足跡というか
人生というか、つまり・・・
その人の歴史みたいなものをたどってみようかと・・・
なぜ・・・路上で暮らすようになったかを
ろ、路上生活者にインタビューして
生の声を聞こうと思います

先生は考え込む
それからおもむろに手帳に書きとめ
みんなに注意事項を与えた
社会経済学的な視点を忘れないこと
具体例を盛り込むこと

先生の声が遠のいていく
私は透明な翼をつけて
教室の机の上をひらひらと舞いだす
目を閉じる
私はちっぽけな塵
目に見えない粒子
ため息みたいに軽い

授業が終わった後
先生はルーを呼び止め
「ちょっとひと言いいかい
インタビューするときはじゅうぶん気をつけるんだよ
へんな人とはかかわらないように
お父さんかお母さんといっしょの方がいいな」

母はもう何年も家に閉じこもったまま
父はバスルームでひとりこっそり泣いている
私は先生にこういうべきだった

ルーが八歳の時生まれた妹は
すぐに死んでしまった
それ以来母は心を閉ざしてしまった
母の瞳に自分が写ってはいないことを感じたルー
その後、ルーは
遠くの知的早熟児の学校に四年間預けられた
母が少し良くなって
戻りたいといってルーは
知り合いのいない高校に入ったばかりだった

私は不安のかたまりだった
いちばん後ろの席に座った
先生はカードを配る
プライバシーに関わる質問事項がならんでいる
兄弟姉妹の欄に
私は「ゼロ」と文字で書いた
数字が示すのはあくまでも抽象的な観念だけで
「0」という数字では欠落感も悲しみも伝えられない

顔をあげるとリュカが私を見ていた
どうしてこんな小さな女の子が
このクラスにいるのだろうと
リュカは二年留年しているので17歳だった
リュカの人生には怖いものなんかなさそう
リュカは椅子にふんぞり返ったまま
ノートも取らない

その日
ルーはクラス写真を見ながら思った
リュカから私に
私からリュカに
まっすぐにのびる直線をいつかひきたいと

駅でまたノーに会う
ブラッスリーで私はコーラー
ノーはウオッカを注文
私のおごり

グラスが運ばれてきたとき
私はノーの手をはじめて見た
ノーの手は汚れて爪には血がにじむほど
深く噛んだ痕があり
手首にはたくさんの傷がついていた
私はお腹が痛くなった
何か言わなきゃと思ったけれど
何も言えなかった

ノーは「何か話して」と言った
私は自分の好きなことを
「・・・とか」「・・・なんか」と夢中でしゃべった
いままでこんなことは一度もなかった
まるで一人芝居のように
答えの返ってこないおしゃべりを・・・
やがてノーは眠っていた
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わたしの勝手な解釈で要約したり
お気に入りの部分を書き留めたり
まだ続きますが長くなるので
読みたいって思われた方は是非図書館へ

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わたしはホームレスの問題を知っているようで
なにも知らなかった
知るための努力もしてこなかった

日本では学校で疎外されている子が
ホームレスの人々を襲撃したりして
ストレス発散の対象にして殺している事件がよくあった

石原都知事も就任直後
新宿からホームレスを一掃するために措置をした

民主党になり
派遣村で活動していた人がこの冬
失業者対策に起用された
しかし縦割り行政の壁は厚く
だれも当事者の目線でものを考えようとしなかった
そんないろんなことを断片的に思い出す

この本はこうした社会問題告発の書ではない
むしろ全否定された少女ノーと
母の愛を感じられずどこにも居場所がなかった少女ルーと
親に見捨てられた少年リュカを語ることで
人生とはなにかを知っていく私(ルー)の成長を描いている

それなのにわたしはいろんなことを
この本から考えさせられた